先日ブリッジがちょっと痛くなってきたようだと言うことで訪れた患者さんがいました。この患者さんは長期に渡り当院にかかっている方なのですが、右下の奥に以前からブリッジが入っていました。もうかれこれ30年以上は使っているのではないかと思われるような古いものです。このブリッジの奥のほうの左の歯がなんとなく痛む、腫れると言うことでした。それで今回は残念ながらこのブリッジを壊して全体的にやり直すと言うことになりました。そしてブリッジを外してみると、手前の歯はまぁ土台等を直せば何とか残るのですが、奥のほうの歯はかなり弱っていました。歯の根が悪くなっていて、歯の奥の方にはヒビも入っているような状況でした。ですので、今回はもう同じようにブリッジを作ると言う事は諦めて治療を進めていくこととなりました。
この奥のほうの歯の治療をしっかりしたいのですが、残念ながらそうもいきません。根の奥のほうにヒビが入っているために、十分な治療というのがなかなか難しいのです。これはどういうことかといいますと、歯の根は中に消毒薬を入れたりして、きれいにすればかなり強度が再生されて頑張れたりするのです。しかし、今回の場合は歯の根の奥のほうにヒビが入っていまして、そのヒビはもう消毒の薬を入れたから何とかなると言うものではないのです。このようなヒビがあると一生懸命消毒をしてもまぁ6割程度治るといったところでしょうか。そして今回は出来る限りの消毒をして土台作りをしていくこととなりました。
さらに土台の上にかぶせものをするのですが、かぶせものをして全体を覆いしっかりと補強するわけです。それでもおそらく長持ちしないでしょう。上の部分はガッチリ作ることができるのですが、支えが弱いので数年で壊れてくるのではないかと思われます。もしかしたら半年程度でダメになるかもしれません。運がよければ5年10年ともつ可能性もあります。
この方は長きにわたりメンテナンスに通っていましたので、出来る限りの予防処置は受けていたわけです。しかし、残念ながら根が悪くなった場合には、歯が十分に残らないと言うことが起きるのです。これはどういうことでしょうか。
歯は根の中が悪くなった場合には、根の中に消毒薬を入れて補強をしていき、歯を延命させる処置を行います。しかし、それでも古くなれば、歯の根の奥のほうにヒビが入ってくるわけです。これはもうどうすることもできません。長く使えば、いつかだんだんともろくなってくる。例えて言えば車を10年20年と使っていき、30年間果たして使えるかというと、それはもうほぼ不可能ですね。いろんなところを大事にメンテナンスして直して部品などを何回も取り替えて大事に使っていく。それでもいつかは限界が来ます。
今回のブリッジもおそらくしっかり治療がもともとしてあったのではないかと思われます。なぜなら30年持っているからです。
多少弱っていたとしても、メンテナンスを続け、どこまでも長く持たせるのか?あるいは車のように5年10年とある程度の年数が経ったら違う車に買い換える。これは言ってみれば、歯の根がもうそろそろ弱そうだから抜いてインプラントに変えて行ったほうがいいであろうと言うようなことに近いと思います。どちらの道を取るのが正しいと言うこともなく、それぞれの道がそれぞれの意味があります。ですので、まずはメンテナンスを受けて、それで状況に応じて相談しながらやっていくのが良いと思います。
あなたはどう思うか、私には私の意見があります。ですが、患者さんの意見を聞いてみると、実に様々な方向に分かれます。人によってはちょっとでも悪ければもう早めに抜いて治療を進めたいと言う人もいます。一方でもうグラグラでもいいからとにかく抜けそうで、フラフラで落ちてきそうになるまで残しといて欲しいと言う人もいます。医学的な診断としては、どちらが正しいのかどうあるべきかと言うことを踏まえて、私は意見を述べますが、患者さんは人間ですから、人としてどう感じたかどう思っているかと言う個人の感想があるわけです。この個人の感想と言うものは、あくまで感想なわけですからどういう感想だから正しいとか間違っていると言うものでもないと思います。すぐに抜いてほしいと言うのがあまりにもええそんなに早く抜くなんてもったいないじゃんと思う人もいるでしょうし、逆にもうグラグラなのにどうして残してるの?それじゃあ不便でしょうがないし痛いじゃない!と思う人もいるし。この個人の気持ちの部分と医学的な診断と言う部分が混在して存在しているところが医療の難しさです。現代社会において、単に正しい、理想的と言うだけではなく、その現状を踏まえてより正しい方向へ行くと言うことなのだと思います。