インプラント治療をしてしばらくしてから、インプラントのかぶせものが壊れる、あるいはインプラント自体が骨の中で緩んでいるなど、そのようなことが起きていることがあります。すなわちインプラントが悪くなっている場合のトラブルがあります。このような事はどうして起こるのでしょうか?
インプラント治療をしている患者さんの約3割から6割位には歯ぎしりやブラキシズムがあるのではないかと言われています。歯ぎしりブラキシズムとは何でしょうか?それは夜間就寝時に寝ている際、無意識下で自分の意識とは関係なく歯ぎしりをしていたり、強くぐっと食いしばっていると言う状態です。もしこのような状態をビデオなどで撮影した場合には、とても大きな音が録音されています。この大きな音は歯ぎしりや食いしばりをするときに歯が擦れる音です。一般的にはそのようなものを皆さんが見る事はありませんが、学会ではそのような映像を供覧することがあります。
ちなみにこのような力は約200キロ位と言われています。もし昼間起きてる意識下であなたが思いっきり強く噛んでも、大体50キロ位の力が出ると言われています。一方就寝時など無意識下における歯ぎしりの食いしばりの時にかかる力はなんと200キロなのです。これはもうとても予想のつかない強い力なのです。しかも自分で全くコントロールできない状況で、その力が歯にかかってくるわけです。そうすると、セラミックのかぶせものが破れてくる、インプラントがだんだんヒビが入ってくる、インプラントの内部の中ネジがヒビが入って折れてしまう、骨とくっついているはずのインプラントの部分がだんだんくっつきが弱くなっていく、など様々な問題が起きるのです。
あなたが歯ぎしりしているかどうかは自分ではよくわからないことが多いです。まぁそれは当然なのですが寝ている時ですので、自分が寝ているときに何をどうしていたと言うことを正確に全て言えると言う人はいないと思います。そうすると寝ているときに一体どうなっているのかと言う事は、家族など誰かが、よく歯ぎしりしているよ、音がするよ、などと教えてくれる場合にはわかります。また最近では、寝ているときにどうなっているかを測るような装具、機械、検査があります。呼吸器内科や整形外科などで無呼吸症の症状を調べる検査がありますが、この簡易検査では機械をそのクリニックから借りて家に持ち帰り自分の体にそれをつけて1日寝て計測するわけです。
そうすると無呼吸の症状が出ている、呼吸が止まっている、など様々なことがわかります。それに似たような装置で歯科用のもので歯ぎしりしている、食いしばっているなどが計測されるような装置もあります。ただこれらの検査は簡易検査と言う、ある程度の目安として行われているもので、これで確定診断が必ずしも行われているわけではありません。
ですので私たち歯科医師はその人が歯ぎしりや食いしばりをしているかどうかを診断するにあたってはお口の中がどのようになっているのかと言うのを見ることが1番妥当であると考えています。すなわち、すでに多くの歯が削れているので、もしくはたくさんの歯が過去に壊れてきた、折れている、あるいは歯周病が本人が歯磨きを結構しっかりしているにもかかわらずどんどん進行していると思われるような状況の人、あとこれがとても役に立つのですがその方の上顎、下顎の骨の形を見ています。顎の骨に凸凹した隆起がある場合、まず間違いなくその人は夜間就寝時にブラキシズム歯ぎしり食いしばりをしています。
そしてこのような状況がある場合には、夜間寝るときにマウスピースを使ってもらうことをお勧めしています。マウスピースとは簡単に言えばボクシングのマウスピースに似ています。ボクシングのマウスピースは割合大きいですのでそれをもっと薄くしたようなものです。寝るときに無理の力かからないように座布団を1枚引いてクッションをつけているような状態です。
今回お伝えしたい事は、多くの方は歯磨きが不十分で歯が悪くなると考えている場合が多いのですが、実は噛み合わせの力に問題があり、自分の歯を壊している、インプラントをダメにしていると言う人も結構いると言うことです。