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矯正治療と輪ゴムをかける

2024年5月12日

先日中学校2年生の患者様の矯正治療を行いました。

その患者様は現在矯正治療中で針金を使って治療を行っています。針金をつけ始めてからは約1年位ですが、お口の中で上下に輪ゴムをかけると言う作業がありますこの輪ゴムは自分で毎日かけるものなのです。矯正をしたことがない方だと何のこと言ってるのかよくわからないかもしれませんが、矯正治療中には、単に針金をつけるだけではなく、自分で輪ゴムをかけたり外したりと言う作業があったりするのです。これはそれぞれ上顎、下顎の歯は、針金できれいになっていくのだが、上と下の関係は、顎の筋肉などで上下のバランスを作っていくわけですが、どうしても上下の関係がいまいちな場合、輪ゴムを使って補助的に斜めの方向などに力をかけたい場合が時々起きるのです。時々起きると言うのは大体30%位の患者さんにこの輪ゴムを使っていくステップがあります。

この輪ゴムは1日24時間のうちほぼずっとつけています。この輪ゴムを外すのは、ご飯を食べる時、歯を磨くときなど限られた時間であり、外れている時間はもしかしたら1日合計1時間程度ではないかと思われます。常に一定の力をかけ続けることが重要です。今私は輪ゴムと言っていますが、これは矯正の専用の輪ゴムです。普通に文房具屋などで売っている輪ゴムではありません。この輪ゴムは1日使うとだんだん伸びてくるので、伸びてくるといってもほんの少しのことです。しかしそのほんの少し伸びることによってゴムの力の加減が変わるわけです。ですので、毎日新しいゴムに本人は交換しなければなりません。本人はこちらから渡した輪ゴムが沢山入った袋をもらいます。ここが矯正の凄いとこで、弱いゴム、この矯正ゴムなのですが、弱い力で一定の力を持続的にずっとかけ続ける、1ヵ月2ヶ月とです。そうするとそれは筋肉の代わりとなり、顎の位置、骨の位置、歯の位置を動かし、新しい骨が添加し、歯茎ができてより良いバランスとなっていくのです。

逆にこのゴムを思いっきり強いゴムにして、ガンガン力を入れれば早く動くのではないかと思うかもしれませんが、決してそのような事は無いのです。弱い力を持続的にしかも一定の力でかけ続けるから、骨は形を変えて変化していくのです。強い力をかけると言うのはいわば骨折のような状態で無理矢理をして動いたらいいけど、それ、歯の下の骨が折れてるよ、と言う状態です。

で、元の話に戻りますが、この患者さんに改めてゴムを必ずしっかりやるようにと言う話をしました。本人に聞いてみると、大体70%ぐらいつけていると思うと、そしてお母さんに聞いてみるとあんまり見てないのでよくわからないけど、本人にはいつもつけるようにと注意しているとの事でした。矯正治療も1年ぐらい経つとなんとなく歯並びがきれいになってくる人も結構います。そうすると油断してしまうのです。大体なんとなくぱっと見て綺麗だから、まぁ大体きれいにどんどんなっていくんだなと確かに一般的な皆さんが見た場合には、まぁそこそこ綺麗と思うかもしれませんが、我々専門家としては噛み合わせバランスなんかを見ていますので、これではまだまだ不十分であり、もっと後もしっかりやっていたほうが良いであろうと判断しています。ですので、そのような場合は本人にゴムの必要性や将来それをしっかりやったかどうかが、自分の人生の差であり、今しかそれはできないこと。大人にもうなってしまえば、体は完全に完成してて、骨がそんなに簡単に動くわけはなく、歯を抜かない限りはもう移動させることができないと言う状況になると伝えています。

tooth model with metal wire dental braces on blue background.

矯正治療中、針金が当たって痛い

2024年3月21日

こんにちは。先日見た患者さんで唇の裏に針金や器具が当たるようで、痛いと言う方がいました。

この方は右上の前歯がとても内側の奥のほうにずれ込んでいて、一方で、犬歯は前のほうに飛び出ていると言うような状況の人です。とてもズレが大きいので、この方は針金を用いて歯を治療しています。中学校2年生です。

一般的に、矯正治療を行う場合、インビザラインのようなマウスピースタイプのものでやる場合、とワイヤーを使って歯を並べる場合があります。成人矯正の場合はこの2つの方法に大きく道が分かれます。ズレが小さければインビザラインのような方法も1つの選択となりますし、とても良い方法となります。しかし、歯の移動量が大きい場合、もしくは噛み合わせが深い場合等は、ワイヤーを用いた場合がより確実です。

この患者さんの場合、小学生の頃から見ていたのですが、小学生の時の一期治療でさほど真面目に装置を使っていなかったために(取り外し型)、このまま2期治療で矯正矯正をやっていく場合にインビザラインのような取り外し型よりも、針金をつけて固定してしまった方が良いであろうということと、前歯の前後的なズレが大きいために、針金を選択した方がより成果が出るであろうと言うような状況の中で、針金を使っています。

今回の主訴である当たっていたいと言うのは、針金をつけて初めてから最初の3日目ぐらいに起きました。最初針金をつけるとやはりどうしても気になってしまいます。そしてつけた当日その場でどこか引っかかるところはないか?痛くないか?などとは確認するのですが、その場ではまだそれほど気にならないのです。何かあるなという事はわかるのですが、痛いほど気になると言うことや、何か唇が押されているほどでは無いのです。そして3日ほど経つと、だんだん唇が閉まってきますし、針金も微妙に動くのです。

金具がどうして動くのか?それは金具が外れるわけではなく、歯がほんの少し動くために、相対的に針金の位置も変わっていくわけです。それは0.2ミリとかごく小さな量なのですが、それでもその変化によっては本人がとても気になる時があります。

実は1ミリ以上動いても全く気にならない状況もありますし、ほんの少し0.2ミリ動いただけでも、なんか当たってる痛くなるんじゃないか?と言うようなことも起きるのです。様々です。

このたびはどうしたかといいますと、まず歯磨きの指導を行いました。歯磨きが丁寧にできているかどうかによっても、実は痛みは出にくいのです。ですから歯磨きができているのかどうか気になって、全く歯磨きをしていなかったなどとなると、多少の炎症が大きな炎症になることがあるために、歯磨きが正しくできているか。具体的には弱い力で丁寧に磨く。普通5分かかるけど、歯磨きが10分はかかるよと言うような事は改めて確認をしました。

次に針金自体を長さを調整する必要があるかのチェックです。今回の場合は、長さほとんど調整する必要はなかったので、ごく少量の微調整になりました。また針金を抑えるゴムを新しいものに交換してできる限りずれることがないようにしました。

次に犬歯あたりの金具が1番気になるようだったので、そこにプロテクトする粘土のようなものを使うことを説明しました。この粘度と言うものは、お口の中に、針金が付いているときに、カバーとして、自分で丸めてくっつけるようなものが実はあるのです。口の中に使うものですので、もし間違えて飲み込んでも問題のないものです。これを米粒1粒程度小さくつまんで金具の表面に自分でくっつけるわけです。ただ粘土をつけているだけですから、食事をしたりしゃべっている間に外れてきます。そういうものです。

ですが、物理的にカバーをしているために擦れたりしないため、炎症が取れていきます。そうすると常にこの粘度のカバーをする必要はなくて、どうしても気になるな、痛いなぁと思う時だけすればいいわけです。

多くの場合、ほとんどの患者さんはこの粘土を2.3回使ったらもう後はそこまで痛くならないから大丈夫かなと思ってわなくなることが多いです。少ないですが、ずっと使い続ける人も1部います。ずっとといってもそれは2週間位のことです。

矯正治療と後戻り

2024年3月14日

先日、21歳の男性の患者様が来られました。この方は小学生から中学生にかけて矯正治療を行っていました。その後は定期的なクリーニングでずっと通っています。

お口の中を見ると、下の前歯あたりは残念ながら少し乱れています。矯正治療が終わり、針金を外し、最初のうちは特に問題はありませんでした。矯正終了後のマウスピースもある程度使っていたようです。

しかし残念ながら少し下の前歯が乱れていました。

矯正治療というものは大抵の場合、針金をつけたりして行われるものです。そして歯を動かしていくわけです。もし針金でない場合は何枚ものマウスピースを順番にはめていき、針金の代わりに歯を押して歯を移動させるという方法もあります。

いずれにせよ、外から力を加え、針金でなどで歯を動かしていくわけですが、この動かす期間は約2年位と考えてください。どうして2年なかといいますと、歯が動くということは、歯の周りの骨の細胞が活性化し、新しく骨ができてそして安定する、そういった生物学的なプロセスを踏まえて歯が良くなっていくのですが、その時間というものは、短すぎても長すぎても良くないのです。ゆっくりと着実に動かしていき安定していく。この時間は約2年位もし短すぎれば、それはちょっと無理があるスピードなのかもしれません。

そして長すぎる場合は、いつまでもその歯を揺らしてしまうために、骨の安定感が悪くなるかもしれないのです。ですので、大体そのような目安の期間があり、いつまでもダラダラとやると言うものでもないですから、患者さんは必ず約束の日に来て、確実に予定通りに治療が進むことを心がける必要があります。これを守らなければ治療の成果はいまイチとなります。

さて、先程の患者様にいろいろ聞いてみると、矯正終わった直後は頑張って後戻り防止用のマウスピースを入れていたけれども、途中から油断して入れなくなっていて、ある時あー少し戻ったかなぁと思ったけどもまぁこれぐらいなら大丈夫かと思って油断していましたと。そしてさらにずれたときに親に注意され叱られ、急いで毎日夜入れるようにしていたと言うのです。

結果的には大きくはないけども、若干はずれ、本人曰くそこまでは気にならないので、これぐらいなら充分きれいになったと思うということでした。

どうしても人間の生活行動ですので、必ずこうしろと人から命令されたからといって、親から言われたからといって、ドクターから言われたからといって、全てが守れるものでもありません。例えば英語のテスト100点を取ると言うことを目標とし、一生懸命単語を覚えるわけですが、90点なら取れるかもしれないわけで。

常にある程度の後戻りと言うものは存在しますし、後戻りしていないとしても、加齢とともにまた様々なことが起きる可能性があるので気をつけたいものです。特に気をつけるべきは以前にも書いていますが、鼻呼吸と舌の上顎につけている位置です。

矯正治療には費用がかかる。安い矯正治療で治るとかいう事は無い。

2024年3月10日

こんにちは、先日訪れた保護者の方から費用をあまりかけないで矯正治療をしようと思っている、どうかと相談を受けました。そのお子さんは今まで一期治療で小学校低学年から小学校高学年まで治療を受けていました。そしてその先中学生になってから次の段階の2期治療を受けようかどうかと言うところで迷っていました。

そしてお母さん曰く、よその医院でもっと安く治療ができると言う話を聞いたと言うのです。その話を具体的にどのようなことかを聞いてみると、マウスピースのような枠を数万円で買って、それを自分で使ってもらうと言うものでした。そうすればだんだん良くなると言うことなのです。

私は矯正歯科は専門ですので、その話が大体どういう流れでそういうことになっているのかはなんとなく想像がつきます。また、そのような類の話を他の保護者の方からも聞いたことが何度かあったり、あるいは本人がそのようなことを患者さんが友達から聞いたと。それはちょっと危ないなと言う事はすぐにわかります。

すなわち、矯正はあまり専門でやっていない医院の場合、マウスピースのような枠だけを売っていて、実際にはその具体的な使用方法の指導等がいまいちで、あまり実際には効果が出ないと言うのがよくあるのです。まず第一に考えられることとして、マウスピースを夜だけ入れてれば治るとか、そのような簡単な事は無いわけです。

もしそれでうまくいくのであれば、矯正の勉強を我々ドクターがかなり長い時間費用をかけて習得していると言う事は全くないと言う話になってしまい大きな矛盾なのです。またマウスピースのようなものをはめる矯正治療はあるのですが、それには一緒に付随したトレーニングメニューがあり、筋肉を鍛える方法が一般的ですが、これをしっかりと指導説明することが実はかなり難しいです。これらの指導をできるようになるためのトレーニングを術者が、そもそもしっかりと受けていなければ、そのようなことを患者さんに教える事は難しいです。またこれはちょっと文章で紙に書いて渡したから、じゃあ明日からやってねと言うような簡単なものではありません。

あなたはどうせなら費用がかからず安いほうがいいと思うかもしれません。ですが、きちんとしたものにはそれなりに材料や教育のためのコストがかかっていて、それがとても安く出ていると言う事はやはり無いのです。今ネットなどで、例えばこのタブレットを1ヵ月飲めば2キロ痩せるとか、そのようなものがいっぱい出回っていますがそのようなものがほんとに果たしてうまくいくでしょうか?もしかしたら100人に1人うまくいくのかもしれませんが、大抵の場合はそれはうまくいくわけがないわけです。

しかし、このようなまやかしダイエットの方法こそがひたすらたくさん宣伝が出ています。もうこれでもかと言う位しつこい位宣伝がネット上に飛び交っています。ここまで毎度毎度宣伝を見てしまうと、もしかしたらうまくいくんじゃないかと洗脳されていくわけです。やはり人間楽して痩せたいとか費用もそんなにかからずに良くなるなら、それに飛びつきなくなってしまう。

ですが、皆さん医療と言うものはそのようなわけにはいかないので、十分に注意が必要です。矯正と言うのは塾に行って勉強するのに似ていると私は思います。1年2年いきます。宿題も出ます。やればやっただけ成果は出ます。やらなくて成果は出ません。時間は必ずかかるものです。時間がかかりだんだんと成績が上がっていくと言うものだと思います。毎日ちょっとだけやれば成績があるよ、そんな事は無いのです。塾に行けば行っただけ。必ずそこには様々なコストがかかっているはずで、それが安いということは無いです。とても安い先生とそれなりの費用の先生、どちらの塾で本当に結果が出るでしょうか。冷静に考えればわかることなのですが

マウスピース矯正とワイヤー矯正の併用

2024年2月22日

マウスピース矯正にはマウスピース矯正の良いところがあります。またワイヤー矯正にはワイヤー矯正の良いところがあります。

その患者さんのお口の中に状況にもよるのですが、ワイヤーが向いている、もしくはマウスピースが向いていると言うような事はあります。そしてこの2種類のやり方、すなわちワイヤー矯正とマウスピース矯正これを両方いいとこ取りしてやると言う方法も実はあります。

それは最初ワイヤーである程度並べていき、難しいところを超えるところまではワイヤーで行きます。そして、中盤に差し掛かってからマウスピースに取り替えてしまうのです。

最後までワイヤーで行ってもいいんじゃないかと思うかもしれませんよね。けど、最後の微妙な固定はマウスピースの方が良い場合もあるのです。

今示した例は最初ワイヤーでスタートし、途中でマウスピースに交代し、マウスピースで最後まで終了していくと言う方法です。その逆も実は存在します。最初マウスピースでスタートし、途中でどうしても乗り越えられないところが残ったところだけをもう一度針金で最後上げていくと言うこと。

またもっと別なパターンもあります。マウスピースでスタートし、途中で1度ワイヤーに変わり、またそのワイヤーを外して、マウスピースに戻る。

なんだかとても複雑な話ですよね。そうなんです。人の体って予定通りではなく、みんなそれぞれバラバラで違うんです。複雑なんです。またどの道具を使ったら確実に治るとか言うものでもなく、その人の体によってやはり矯正の限界というものがあり、どこまでも歯や顎が自由に動くわけではありません。

例えて言えば、美容外科で顔をあの芸能人にそっくりにしろと言っても、そんなこと起きるわけないですよね。その人固有の個性があり、その個性を生かした中でより良い状態は持っていく、より安定した状態へ持っていく、より健康的な状態へ持っていくと言うことなのです。どこまでも好きなところへ行くと言うわけでもないです。それがその人らしさ、その人を尊重しているということだと思っています。

またどの装置が良いのかと言うのは、微妙な場合があり、実際にやってみて、途中でやっぱり変えたほうが良いとか、そういうことも起きたりします。最初から全てがわかるわけでは無いのです。患者さんからしてみたら、もしかしたらどうして途中で装置を変えるんですか?と思うかもしれません。

ドクター側からしてみれば、人間の体で一人一人違うので、全く同じ形の車を修理しているわけではありませんから、同じ方法で全部うまくいくということはあるわけがないと言う前提です。実際にその1人の人を見てみてやってみて、初めてわかるということがあります。

例えばの例で言うのですが、私は患者様に入れ歯を作ることがあります。そして1ヵ月2ヶ月とかけて入れ歯を作るわけですが、その中でなんとなくその人の顎の動きや噛み癖、特徴なんかがなんとなくわかるわけです。そして1つ目の入れ歯ができて、それで確かに大体はうまくいくのですが、半年後にもう一度新しいのを作ることになったりします。

その時には前にはこうだったから、多分こうなるんじゃないかとか、またいろんなことがわかって、もうちょっとこういう風にしといてもいいかなといろんな予測が立つわけですね。そうやって1人の患者さんに1度作ってもう一度入れ歯を作るなんて事はよくあることなんです。けど、人間だから多分そうやって作っていくのがいいんじゃないかなと私は思うんです。

もし仮に1回だけしか作らなかったとしても、やはりその作ったものを何度も調整したり様子を見たりするわけで、全く新しく作り直すわけではないけれども、問題が起きなかったとしても時々は経過を見てみたいと思うし、ドクターとして。

歯科矯正と歯をできる限り、抜かない方法

2024年2月11日

前回の話に続き、抜歯を避ける方法に関して話をしていきたいと思います。

専門用語でIPRという言葉があります。これはかなり難しい言葉で矯正をある一定以上やっている歯科医師、もしくは歯科衛生士等であれば知っている言葉です。ですが、一般の方にはちょっとわかりにくいので、もう少し噛み砕いてお伝えしていきます。歯と歯の間を0.3ミリほど削るということです。

もし歯と歯の間を0.3ミリほど削ると、0.3ミリの隙間ができるわけです。そうするとその分スペースができて重なってる歯を動かしやすくなります。ということは、歯を抜くよりもその方が合理的であると言う場合があるわけです。

ですが、0.3ミリですので、それだけでは足りない、たった0.3ミリでこんなに重なってるのに歯が治るのか?ということもありますですので、それは1カ所だけではなく、6箇所位とか10箇所位この作業を行うこともあるわけです。そうすると全体としては2から3ミリの隙間ができますので、これらを有効に使って引っかかりをひもといていけばきれいに並ぶと言う方法です。これで抜かないのであれば、とても良い方法の1つであると考えられます。

では、歯と歯の間を0.3ミリ削っても良いのか、大丈夫なのか?ということを気にされる人も出てくると思います。歯の表面には1ミリから2ミリほどのエナメル質と言う層があります。これはとても硬い層で、この層があればはとても虫歯になりにくいのです。ですので、このエナメル質のある範囲内で安全な範囲内を多少だけ削るということなのです。逆に言うと隙間を作るために歯を2ミリ削ったと言うのではちょっとだめな場合も考えられます。

だめな場合とはどういうことかと言うと、歯の神経が生きていれば、削る量は先ほど言った0.3ミリとか0.5ミリのような範囲になるかと思います。ですがもしその歯がもう既にかぶせ物がしてある、神経がないような歯であれば、1ミリ削っても問題は起きないわけです。ということは、全体の状況を考えて、どこをどれぐらい削って、隙間を作るかと言う治療計画になります。そして引っかかりを解くために合理的な場所と量を考えてこの削合を行っていくわけです。

どうでしょうか?あなたは削ると聞いて、ちょっと嫌な気もするかもしれません。ですが、どちらかの選択なのです。IPRと言うこの手法を用いるのか、前回にお話しした小臼歯を抜歯するのか。そうすると患者さんにどうしたいかって言うことを聞くのですが、大抵の場合はあまり抜きたくないから、0.3ミリほど角を丸める、IPRと言う方法を選択される場合があります。ですが、それでも小臼歯を抜歯してくださいと言う方も、実はちらほらいるのです。

どうしてそれでも小臼歯を抜歯してくださいと言う人がいるのでしょうか。それはやはりちょっとでも前に出ているのが確実に下がったほうが良いのではないかと思っているからと思われます。このようなことから人によってどのように物事を捉えているのか、感じているのかが、個人差がかなり激しいということです。ですので、担当のドクターとよく相談してどちらを選択するのかは考えていく必要があります。もちろん診断的に片方しか選べない場合もありますので、そのような場合にはそれを選択する可能性が高いです。

ちなみに、このIP Rと言う方法は最近とても増えてきている方法です。昔からあった方法なのですが。その理由として考えられるのは、マウスピース矯正の普及が1つにはあると思います。マウスピース矯正はこのIP Rと言う方法と相性が良いからです。また昔は、ワイヤー矯正は一般歯科の先生でやっている方が少なく、矯正だけを行う歯科医院で矯正を行っている場合には、一般歯科治療の一部にあたるIR Rを得意としていないためにほとんど行われていなかったと言う実情があります。

マウスピース矯正とワイヤー矯正

2024年1月21日

今現在、大人の矯正、すなわち永久歯を並べる矯正には主にマウスピース矯正とワイヤー矯正が主流となっています。

マウスピース矯正とは何でしょうか?簡単に述べるとインビザラインに代表されるような透明なプラスチックのマウスピースを口の中に入れて歯を動かしていく方法です。この方法の利点は、従来のワイヤー矯正と違い、針金を使わないため、目立ちにくい、遠目から見ると矯正をやっていることがわかりにくいということです。もう一つは透明のマウスピースは取り外し型ですので、固定の針金をつけなくて良いと言う点があります。

一方従来からあるワイヤー矯正と言うのは、お口の歯全体に針金をつけて、歯を動かしていく方法です。この方法は1個1個の歯に四角いブラケットをつけます。これは完全に接着剤でくっついていますので、途中で外すようなことはできないですし、自分で外すことも基本的にはないものです。そしてその周りに針金が付いていて歯を動かしていくものです。

マウスピース矯正は今後さらに流行っていくものであると考えられますが、様々な問題点もあります。それはマウスピースでは全て動かせると言うわけでもないと言うことです。マウスピースで動かせる限界限度というものがあります。もちろん針金だったら、何でも全てどこまででも動かせると言うものでもありませんが。人間の体ですので、当然限度というものがありますから。それを置いても、マウスピースと言うもので、動かすとなると、どこまでも自由度が高いわけではないのです。

そうなるとマウスピースに適しているものは何なのかと言うと、簡単に言ってしまえば軽度から、中程度の問題がある人が、マウスピースに向いていると言うことになります。そしてかつ本人が針金をつけたくないと言う場合です。当院においてもこの2つの矯正方法を成人の方には選択してもらっていますが、現状、半々位で選択をされています。すなわち半分の方はマウスピースが目立たないからいいし、なんとなく痛くなさそうだし。ということです。一方で、私は針金でやりたい、すなわち毎度マウスピースを自分で入れるのを毎日繰り返すのに自信がないと言います。あるいは針金の方がしっかり動きそうだからと言う方もいます。

あなたはどう思われますか?私の個人的な意見としては、歯の位置がどうであるかということもさることながら、本人の気持ちや性格と言う問題があると思います。すなわち、性格的にマウスピースを自分で取り外ししたりするのがとても億劫だと思う人にはやはりマウスピースはやめたほうがいいです。逆に人に見られるのが嫌だ。目立つのがとても気になると言う方であれば、やはりマウスピースにしたほうが良いでしょう

またマウスピースではどうしてもうまく動かないような状況の患者さんも多々います。例えば歯が半分ぐらい埋まってるようなものを引っ張り出して並べるような場合は、もうこれは針金で引っ張るしかないです。マウスピースで引っ張る事はとても難しいですし、うまくいくということは無いので。
そして今矯正の現状としては、マウスピースがものすごい勢いで流行っているために、ワイヤー矯正ができる先生が減っていると言う問題が起きていると私は思います。というのも私自身名古屋にて矯正のセミナーを手伝っていますが、このセミナーでは主にワイヤー矯正、そして時によってはマウスピース矯正もありと言う形で講義実習を進めています。今このセミナーでは、若い先生の受講者がやや減っているのです。この傾向が続くとどういうことが起きるか、ワイヤー矯正のできる先生がどんどん減っていくと言うことです。

ちなみにこのセミナーは1年間のコースで行われていますが、1年間このセミナーを受けただけで、ワイヤー矯正ができると言うわけでもありません。簡単な症例であれば1年受ければできるのですが、中程度以上の症例となると、やはり3年以上はこのコースを受け続けないとなかなかできないと、私は受講者の方を見て思っています。そういう中でマウスピースだけのセミナーと言うのも行われていて、これは1日コースや2日コースといった、極めて短時間でセミナーが行われていることが多いです。

無論それは初心者向けのものなので、とりあえずまず理解すると言うレベルからなのですが、このような短時間の研修を受けてしまえば治療をとりあえずはスタートできると言うものになっているのです。ですからまずはちょっとやってみようと言う先生は、このような二日間コースなどを受けて、マウスピース矯正を始めている方がちらほら見えます。そうなるといよいよワイヤー矯正をやられる先生方が減っていくと言う非常に心配なことが起きているわけです。

私は10年20年先の矯正歯科の世界を考えたとき、マウスピースも大切だが、ワイヤーも技術としてはとても大事であると思っていますので、ワイヤー矯正の技術は大学院や年間コースのセミナーのごく1部でしか教えてもらえないと言う教育飢餓状態をとても危惧しています。